持ちつ、持たれつ。

声豚・現場厨・懐古のクソ三拍子

土田万平という男

 2020年12月5日、曇天の下で幕を閉じた「ワーキング・ステージ『ビジネスライクプレイ』」について、どうしても書き残したいので久々にはてなブログを開いている。衝動のまま殴り書きをしているので、まとまった言葉が書けるわけがないけれど、この感情をなんとかして残しておきたい。

 これは私から土田万平への、ファンレターである。ラブレターと言えないのは、もうこの言葉が土田万平に届くことは決してない、余りにも独りよがりな文章だから。幕を下ろした(幕、なかったけど…)(新宿FACE……)舞台の一登場人物に、一方的に話しかける三文芝居に、物好きならばどうかお付き合い頂きたい。

 

 ここでひとつ注釈を入れておきたいのだが、私は土田万平を演じた陳内将さんのオタクではない。なので陳内将さんが今回、あるいは普段、どのように役を作り上げているのかとかは本当に知らない。ゆえに陳内将さんのファンの方からしたら「いやそれはないないない」となる部分もあるかも知れないが、その辺りはご容赦頂けると幸いです。

 

 

 初見のときから、ああこの人のことを好きになってはいけないと思った。新宿歌舞伎町で出会った男を好きになるなんて、絶対に碌な終わり方をしないって、多分ばあちゃんも言ってた。そりゃ〜そうだ。だって土田万平は、この舞台の上で2時間そこそこしか存在しない、『役』だからだ。好きになるには不毛すぎる。千秋楽だってすぐそこだ。もうすぐ、二度と土田万平には会えなくなる。それでも私は土田万平という男について考えることをやめない。きっとこれは、羨望で、執着で、恋に似た何かだから。

 

 土田万平という男は、やる気のない人間だ。何かを常に諦めている。仕事はしないし努力もしない、ゲームばかりするし、事あるごとに悪態をつくし、喜んで悪ノリをする。結果机の上にリセッシュをぶちまけたりする。(12/5マチネ)

 そして他人にも本気になるなと言う。無駄な努力をするなと言う。諦めろと言う。土田万平は無気力で身勝手で、正直どうしようもない。

 

 ただ、土田万平という男がそうなったのには理由がある。いや、舞台の上の事やモノには全て理由がある。『チェーホフの銃』は私が最も信頼している理論だ。

 それはさておき、土田万平は過去にコピーライターとして大きな挫折をしている。8年前に新卒で大手代理店に入社し、各新人賞を総なめしたのち、盗作疑惑で全てを失った。地位も、名声も、そしてそれまでの努力も。無駄だと分かっていながら頑張ることが、土田万平には出来ない。結局全部なくなるのならば、最初からない方が良い。その方が傷つかないから。大人になればなるほど、転ぶのが怖いのは当たり前の感覚だ。怪我の治りというのはどんどん遅くなる。土田万平は、かつての名前を含む全てを失くして、空っぽになった男だ。

 

 しかし土田万平は本当に全てを手放すことは出来なかった。名前も地位も名声も失ったが、コピーライターという仕事は、言葉を綴ることだけは続けていた。他のことを考える余裕なんてなかっただけだ、と土田万平は言う。でも続けていたのは事実だ。心の根底にどんな思いがあったとしても。そして、過去に土田万平が書いた言葉も、生き続けている。そう、日野の中で生きていたように。

 土田万平の綴った言葉に人生を変えられた日野に「俺がここにいるのはアンタのせいだ、責任とってください」と言われて、土田万平の瞳に光が灯るのを確かに見た。土田万平のなかで、なにかが変わった瞬間だった。

 求めている人のところに言葉は降ってくる、と土田万平は言う。同じ口で、「言葉が降ってこねえんだよ」と言っていた。なんで降ってこないかって、それは土田万平が求めることを辞めたからだ。努力することも、必死になることも辞めた。だから日野の言葉によってもう一度求めた土田万平のもとに、言葉は降る。そしてそれは、土田万平を信じた仲間たちの上にも。

 あのとき日野から投げられた豪速球ど真ん中ストレートの言葉は、土田万平が求めていた言葉に他ならない。

 

 本気を出した土田万平には、誰も敵わない。そしてどんな土田万平も仲間として迎え入れたチームは、無敵だ。どんな勝負事ーー賭け事にも勝てる。ずるい男だ。

 とはいえ、土田万平はそう簡単には変わらない。大きな案件を勝ち取っても、いきなり仕事をバリバリこなす人間にはならないし、チームの上に立って指示をすることもない。いきなり変わる必要なんてない、と言う土田万平はその実、もう変わっているのだけど。

 

 土田万平が最後に仲間たちに綴る言葉は「ビジネスライクプレイ」ーー遊ぶように仕事する。ゲームで徹夜をしていた頃「ここに住みたいよなぁ、仕事はしたくないけど」と言った土田万平が綴った言葉に、かつて「仕事なんですよね?遊びじゃないんですよ」と怒った日野が、今は「いいですね」と頷く。言葉を交わしながら、少しずつ変わっていった答えだ。

 

 言葉は、コミュニケーションだ。常日頃から特に気にも留めないうちに、人間は言葉を交わしている。自分の言葉が他人に影響するのは当たり前であり、その逆もまた。求めている言葉だけが貰えるわけではないし、自分に投げられた言葉すべてを受け止めることが難しい場合だってある。悪意ある言葉を投げられることだってあるだろう。自分の言葉が、他人に意図しない形で伝わることもある。それを解決するのもまた、言葉だと思う。だから私たちは言葉を綴ることをやめられない。投げられた言葉で、交わした言葉で、私たちはどんな風にでも変わっていけるのだ。

 そんななかでも、土田万平の言葉は、いつの日かこの国の全ての人の心に何かを残す。土田万平の言葉によって多くの人の何かが変わる。土田万平は、昔も今も、天才コピーライターだ。芸術家でもアーティストでもない、ただのサラリーマンだけれど、多くの人が求めている言葉を与えることができる。土田万平はそういう人間だ。

 

 だからみんな、土田万平という男が好きなのだ。

 

 

 以上が、私から万平さんへのファンレターであり、万平さんに恋をしていた私の遺書です。とはいえそんな簡単に感情処理出来てたらオタクなんかやってね〜〜〜って話じゃんね?千秋楽を迎えた舞台の役への、誰から見ても意味なんてないこの恋は、まだしばらく抱えて生きていくことになりそうです。

 

 余談中の余談だけど、万平さんが吸っていた煙草は通称赤マル、つまりマルボロだった。マルボロの名前の由来は諸説ある。そのひとつが『Man Always Remember Love Because Of Romance Only』ーー人は本当の愛を見つけるために恋をする。私はこの話を知ってから、マルボロを吸ってる人は全員ロマンチストなんだなと思ってるわけだけど、万平さんもそうなんですかね?言葉のプロだから、知っているんじゃないかなぁ。日野くんに焚き付けられた万平さんは清々しい顔で煙草と携帯灰皿をゴミ箱に捨てた。それって、このお仕事に本当の愛を見つけたからですか?楽しみながらーー遊びながら仕事をする今に、万平さんの愛が見つかっていたらいいなって、心からそう思う。もう会えない土田万平という男への、ささやかな祈りとして。

 

 最後に!イメソン厨として2つの曲を貼っておきます。万平さんのことを好きになったひとりとして、自信を持っておすすめします!(日野くんおるね)

 


平井 堅 『ノンフィクション』MUSIC VIDEO (Short Ver.)

 歌詞が全部土田万平、了解という感じなので良ければフルバージョンを聞いてほしいです。つべ公式にはショートバージョンしかなかったので……。何年か前にFNSでてちのダンスとコラボしてたのもすごい印象に残っていて、改めて聞いたらめっちゃ土田万平だった。土田万平の孤独に手を伸ばしたい方向け。(ニッチすぎない???)

 


back number - ハッピーエンド (full)

 ツイッターにも書いたんだけど千秋楽が終わった後ベソかきながら歌舞伎町を駆けだしてセブンで赤マル(亜種)を買ってPePeの前の喫煙所で吸ってるときに正面の何とかビジョンで流れていて死んだ曲。好きな男に2度と会えなくなった直後に聞く曲じゃねえんだよな。どんなドラマだよって思いながらまたちょっと泣きました。「あなたを好きなままで消えていく。私をずっと覚えていて。なんてね、嘘だよ、元気でいてね。」