持ちつ、持たれつ。

声豚・現場厨・懐古のクソ三拍子

リプライズのその先へ/秋単2022に寄せて

 2022年も皆さんお疲れさまでした。いかがお過ごしでしょうか。私は2022年に立川ステージガーデンの悪口を言いまくっていたら年越しを立川ステージガーデンでする羽目になり、12/30現在でも現場納めや現場まとめを出来ずにいます。しかも来年4月にも立川ステージガーデンでの現場が決まってるからね。これが因果応報ってわけ。撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ。胸に刻みます。

 

 とはいえ、2022年、人生サイコーの現場に通わせていただいたので、そのことだけは書きとめておきたくて、こうしてはてなブログを開いております。前置き、長……。

 

 秋単2022、楽しかった~!!!!!

 

 MANKAI STAGE『A3!』に人生を救われたのか狂わされたのかどっちでもいいがそれから早3年9か月、2回目となる秋組単独公演。もちろん大好きな人が出てるから、そりゃ楽しいだろうよ。でもそれだけじゃなくて、演劇として、ひとつの作品として、秋単2022のことが大好きだった! すごく幸せなことだし、ありがたいことだと噛みしめながら、千秋楽まで駆け抜けられたこと、とても大切な記憶になりました。私の走馬灯だいたい秋単2022のことになると思う。

 今までのエーステシリーズのなかでもひと際、構成が好きだった。Twitterでも言ったことだけど、『家出少年』の主人公が「二度とこんな家戻るか!」と実家を飛び出すシーンから始まって、最後は彼の「ただいま」という言葉で終わるのが、あまりにも美しくて。

 それから、秋組の面々がそれぞれの家出の思い出をアレンジ違いの同じ歌に乗せて語っていく『ボーイフッドコラージュ』も、すごく良かった。私は前回の秋単2020のときに「秋組は基本的にタイマンである」と書いたけれど、今回もそれが健在でなんか嬉しかった。好きな人が舞台上にいるとその人しか見られなくなってしまうけど、全員が莇くんとタイマンを張ってくれた(張ってません)ことでちゃんと秋組のみんなを見ることが出来たので……。

 ゾンビランナイトにすらこっそりメロディが仕込まれていたりして、この『ボーイフッドコラージュ』がいかに秋単2022を象徴する音楽なのかがめちゃくちゃ作りこまれていて、いやはやとんでもない舞台に通ってしまったと思わずにはいられない。作りがもはやグラミュである。

 

 この『ボーイフッドコラージュ』は、原作ストーリーのタイトルにもなっている、とても重要な言葉で。秋組のみんなは、莇くんの『家出』に関わることで、自分自身の少年時代を思い返していく。旗揚げ公演のときに秋組がやった『ポートレイト』で語られたことが『自分の半生』であったとするならば、今回の『ボーイフッドコラージュ』で語られたのは『自分の原体験』に他ならない。『原体験』は、『半生』よりももっとそれぞれの心の真ん中に近いところにある。他人のそこに触れさせて貰えること、人生でそうそうない。そんな貴重な経験を忘れたくないから、今回は『ボーイフッドコラージュ』を中心に振り返っていこうかな。

 

 最初は万里くん。

 万里くんのボーイフッドコラージュは、まるでお手本のような、基本に忠実な構成。シーンが進むと、莇くんへの見本としてやってるからだと分かって、にくい演出だなと思った。印象的だったのは、序盤の座り方。今の万里くんがしないような、膝を揃えた座り方をすることで、育ちが良くて賢くて沢山褒められて育った、そんな万里くんの子供時代が見えてくるようだった。

 それから、水江さんは元々歌が上手かったけれど、歌詞に対するニュアンスのこめ方が2020のときより磨きがかかっていて、例えば「心が日に日に乾いてく」の「乾」の声の出し方とかすごく好きだったな。

 万里くんの『ボーイフッドコラージュ』、原作では最後にお姉さんが出てくるが、そこをカットしたため、最初から最後まで登場人物は万里くんたったひとりだ。それは秋組唯一で、より一層万里くんの持ち続けた『孤独』を色濃くし、さらに『まだ見ぬ誰か』の存在を浮き彫りにする。とある日の公演で、「目に映る全てがくすんで見え始めた」で瞳から光が消えたように見えたときがあった。おそらく席によるのだと思う。でもそのあと一番明るい白い光に向かっているときは、客席に背は向けているけれど、確かにその瞳には光を湛えているのだろうと想像が出来て、『孤独』を消し去るほどの出会いを予感させてくれた。

 そしてこの『原体験』から、万里くんにとっての『原風景』は、きっとあのときタクシーの車窓に流れていった街並みなんだろうなと思った。原作の時間軸では既に免許を取った万里くんだけど、ふと車窓の景色を見て今でもこのときのことを思い出したりするんだろうか……。そんなとき今の万里くんはどんな表情をするんだろう、なんてことを思った。

 

 二番手は太一くん。

 アコースティックなアレンジは『郷愁』って感じがして、太一くんがこの思い出をとても愛おしく懐かしんでいるのがよく分かる。バックの音がとても少なかったように感じて、この中で歌えるのはすごいと思った。特に北九州初日のリバーブ100000みたいな環境(オブラート300枚)でもよく通る声が印象に残っている。もちろん赤澤さんの努力の賜物だけど、太一くんの真っ直ぐさが伝わってきてとても好きだった。

 太一くんは秋組唯一、マイナスな感情ではない家出の思い出だ。家出でありながら冒険譚とも言えるようなそれは、莇くんが入団オーディションのときに語った話に近い。引っ越してしまった好きだった女の子にもう一度会いたいという動機、太一くんが好きな人や物事を手放したくないタイプなのが分かる。太一くんは小さい時から、大切なものを大切に出来る人なんだね。

 それから、曲の中での立ち位置。蹲ってわんわん泣いてる小学生の自分、を迎えに来た両親は最初2つの照明で表現される。その照明の当たっていた場所に立って、幼い自分に大切な言葉をくれる父親。そしてその言葉に「ただ黙って頷いた」昔の自分を、父親の立ち位置から一歩離れたところで、今の太一くんが見ている。歌い出すときも蹲っていたところを見ていて、そこに幼い太一くんが確かに見えた。観客の視線の誘導が上手い。だから太一くんが歌いながら視線を動かすことに意味があるし、その視線の先にちゃんと『あの子』がいることに気付けた。『あの子』こと幸くんは、真剣な表情をしていたり、微かに笑っていたり、右手を少し握りしめていたり、日によって違っていて、太一くんの『あの子』との色々な思い出を映しているようだった。

 そして最後に太一くんが語る、秋組のみんな、そして少年時代の自分をも裏切ってしまったこと。太一くんの心に色濃く影を落とすこの話は、おそらく太一くんにとって二つ目の原体験になってしまった。それでも「秋組のために頑張りたい!」と前を向いて言えること、そしてその秋組にはすでに莇くんを含んでいること。思い返しては苦しくなるような二つ目の原体験を、秋組であることで乗り越えていっているんだと思えて嬉しかった。太一くんの大切な『秋組』を、太一くんが大切に出来るから、大丈夫。

 

 三番手十座くん。

 ひとりだけ短調で始まるから、その段階で十座くんの『原体験』が彼にとって深い深い心の傷であることを察知してしまう。セットを半回転させた階段で、十座くんはずっと思いつめた表情をしている。エーステは影の使い方が上手いといつも思っているけれど、このときの十座くんの影もまた、万里くんとは違った『孤独』を感じる。階段を一歩降りる度に十座くんの心が暗い暗い闇に沈んでいくようでつらかった。

 この十座くんの原体験のなかで大きな意味を持つのが、彼の右手だ。ガキ大将に煽られて握りしめた拳。震えるお母さんの手と繋がれた手のひら。優しい小学生の男の子にとって、信じてもらえないことはどれだけショックだっただろう。でも、家出した自分を迎えに来てくれた家族と繋いだのも、同じ右手。十座くんをこの世界に繋ぎ止めたのは、彼自身の右手だ。

 そして力強く歌い上げる「手に入れた大切なもの/人生を変えるための強い願い」このどちらも、十座くんが強く握りしめた右手の中にある。強い強い眼差しで見つめたその右手に込めた沢山の感情を、役者・兵頭十座はこれからも絶対に忘れることはないんだろうな。

 秋単2020のとき、秋組のみんなは自分じゃない誰かになりたい人たちの集まりだと思ったけれど、特に顕著に、ずっと自分のことを好きじゃなかったんだなと思ったのが十座くんだった。自分じゃない誰かになるために芝居をしていると言う十座くんが、いつかありのままの自分をもっと、受け入れられたらいいなと思う。

 

 四番手、臣くん。

 臣くんと莇くんには「幼いころ母親との死別」という共通点があることを、ここで知る。母の死を打ち明けてくれた莇くんに対して、自分も話すかどうかの逡巡が、臣くんが普段から優しくて、他人に気を遣わせることを良しとしない性格なのが相変わらずだと分かって、とても良かった。そして悩んだ結果、ちゃんと自分も打ち明けるところが、初期の臣くんとの違いだとはっきり分かるのも。カンパニーのなかで成長した臣くんだからこそだ。

 そんな臣くんの『ボーイフッドコラージュ』はバンドのサウンドに乗せて語られていく。語りに入った瞬間に声色が大きく変わるのが印象的で、母の死が自分や家族にどれだけの影を落としたかが伝わってくる。声色が変わる瞬間はほかにもあって、「自分のなかで何かがプツンと切れた」の言い方には毎回胸が締め付けられるようだった。

 那智と話しているときの喋り方も普段の臣くんとは全然違って、それだけで本当に「唯一無二の親友」だったことが分かってすごい。そういえば一度だけ、「唯一無二の親友との出会い」で隣にいるであろう那智を軽く小突くような素振りをしていたときがあって、そういうカンパニーのメンバーには見せない面がまだまだ彼の中にあるんだろうなと思ったのを覚えている。

 そして「好きなだけサボるのはもう少し後にするよ」と過去の臣くんは那智に告げる。それが後のヴォルフに繋がっているのだと思うと、微笑ましいような、さらにその先を知っているがゆえに切ないような、得も言われぬ気持ちになった。那智との出会いを『原体験』にしている臣くんを知ってから改めて秋単2020の『異邦人』を見たらきっとまた感じることが違いそう。万里くんの言う「腹が据わった感じ」を、今だったらもっと知れるような気がするよ。

 

 最後は左京くん。

 左京くんの『ボーイフッドコラージュ』で語られるのは、母との思い出。第三回公演のときに幾度となく語られてきた、大切な母親との『原体験』である。そもそも左京くんは半グレだったころすら、母子家庭で大変な思いをしながらも自分を育ててくれた母への感謝を忘れたことはない人で。そんな左京くんだから、「流行りのカードゲームを知らなくてクラスメイトに馬鹿にされた」のは自分だけではなく自分の母すら馬鹿にされたように感じて、余計に許せなかったのかなと思った。

 公演の途中から「母親に申し訳なくて」でカードを背中に隠す素振りが加わって、より一層彼の後悔や自責の念が伝わってきて、つらかった。そしてここで、左京くんの家出に気付いたお母さんの気持ちも想像できてしまう。貧しい暮らしでも文句ひとつ言わなかった小学生の子供が、どう見ても弱いトレカ1パックだけを置いて居場所が分からなくなったら。お母さんの「ごめん」に込めた気持ちを、左京くんがちゃんと汲んでくれていて、本当によかった。

 特に好きだったのは、「俺の宝物になった」で一瞬で少年の表情と歌い方をするところ。きっとここが彼の『原体験』。ひとりじゃないこと、誰かに大切にされていること。彼に絶対に忘れないで欲しいなと私が常々思っていることです。そして「いつかは成長してこの恩をこの愛を返そう」の「返そう」で莇くんに仁義王カードを返す演出、もうぐうの音も出ない。pay forwardの精神。そのまま共通歌詞部分を全て莇くんの目を真っ直ぐ見て歌うのは、ずっと家に帰れと言い続けていた左京くんの、莇くんへの理解や共感、そして歩み寄り、そんなものを感じ取れて、和解の象徴のようだと思った。

 公演の中で一番好きなのが、この左京くんの『ボーイフッドコラージュ』だった。左京くんは私なんかが思うよりずっと、沢山のことを諦めてきた人生なんだと思う。だからこれからは、何も諦めないで生きてほしいなと何度も願った。

 

 ボーイフッドコラージュがない代わりに、銀泉会でのポートレイトの莇くん。

 莇くんのポートレイトは、音楽も照明もエーステの得意なもの全部詰め込まれているくらいの完成度の高さで、正直これだけで値段分の価値があった。「青白かった頬が薔薇色に染まり」の照明の色の変化があまりにもきれいで。それに続く「まるで魔法を」のところ、おそらく吉高さんが地声で出る音域を、わざと半分裏声にすることで、幼い莇くんの興奮と感動がダイレクトに伝わってきて思わず身震いした。

 そしてもちろん、莇くんのポートレイトを見ている秋組の人たちの様子も。左京くんは土下座の姿勢から頭を上げるのが一番早く、思い出話を懐かしそうに聞いている。けれど「どんな魔法を使っても母さんはもうどこにもいない」で一度目を逸らして顔を下げてしまうのが、苦しかった。世話係としてずっと一緒にいたくらいだから、きっと病院の送り迎えとかしてたんだろうなと想像が出来て、いつも心臓がギュッとなる感覚だった。

 莇くんは終盤、魔法のブラシを持ちながら、「母さんに出来なかった分も他の誰かに魔法をかけてみたい」で秋組一人一人と目を合わせていく。真剣に見つめ返す人、穏やかに見守る人、小さく頷いてみせる人。反応はそれぞれだったけど、全員がちゃんと『仲間』として莇くんの背中を押しているのが伝わってくる。間違いなく、莇くんが家出の先で、見つけた絆だ。

 

 

 そして物語は、ボーイフッドコラージュ~リプライズ~に終着する。

 

 グラミュの終わり方である。

 

 ウチ…これ……帝劇で見た!!!!!!!!!!!!

 

 ソロパートがあるのがリダルキなのもとても良いし、振り返った莇くんが一人一人とゆっくり目を合わせていくのも好きだし、やっぱりバラバラに捌けていくのが秋組だし、でも今回はみんな捌ける先が寮の中で莇くんの最後の「ただいま」にすべてが詰まっていて、もう、この曲のカタルシスがヤバい2022大賞受賞。なんかこの劇場ハッピーパウダー撒かれてるんじゃないってくらい幸せな気持ちで毎公演胸が張り裂けそうだった。天晴、脱帽、完敗です。

 

MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~AUTUMN 2022~

 十座くんのところでも少し触れたように、秋組のみなさんは『自分とは違う誰かになってしまいたかった人たち』の集まりだったけど、莇くんは違う。莇くんは家出をしてでも自分を曲げずに貫いて、そして叶えた。そんな莇くんの加入が、『自分とは違う誰かになりたかった』秋組のほか5人にとって、きっと良い刺激になってくれると確信している。そしてみんながもっと自分自身のことを好きになってくれたらいいなって、今でも思ってるよ。

  リプライズは、反復。秋組のみんなは今回、家出少年Aこと莇くんに、過去の自分を重ねて、自分の『原体験』をもう一度詳らかに見つめ直した。過去の傷を抱えて、隠してきた彼らだけど、今、莇くんの背中を押しながら、過去の自分の背中も押してあげられていたのかもしれないね。

 

 本当にずっと楽しくて、あっという間の1か月だった。左京くんのこと好きになってよかったっていうのはもちろんずっと思ってたけど、それ以上に、この演劇に出会えてよかったなって気持ちでいっぱい! でもこの演劇に出会えたのは左京くんのことを好きになったからだから、やっぱり左京くんのことが大好きで、幸せ! 私が今まだ演劇が大好きですって言えるのも左京くんのおかげだから、私もこの恩を、この愛を、いつか返せたらいいな。

 載せきれないくらい写真あって、嬉しい。秋単2020のときはガチでずっと一人でいたから、びっくりだよね。左京くんがくれた縁だよ!

 

おまけ

 恒例のごとく、秋単2022に通いながら聴いていた曲を貼っておきます


www.youtube.com

ベストオブ秋単2022ソング。とりあえずこれ聴いとけば間違いない。

 「僕たちが作っていくストーリー 決して一人にはさせないから」

 


www.youtube.com

秋組といえばこれでしょ 特にしんまけのオタクは

 「たった一瞬の このきらめきを 食べ尽くそう二人で くたばるまで」

 


www.youtube.com

本当は5人verを聴いてほしいんですが…推しの歌声が最高なので……

これは私から左京くんへの”感情”の歌です(←キッショ)

 「ねえ 君といるだけでなんか遺伝子が笑う」